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木の記憶、職人の矜持 ~高橋たんす店が守り続けるもの~

木の記憶、職人の矜持 ~高橋たんす店が守り続けるもの~

 

 

桐箪笥の町、加茂

新潟県加茂市。三方を緑の山に囲まれたこの小さな町は、知る人ぞ知る「桐箪笥の町」です。粟ヶ岳から流れ出る加茂川が市街地を縦貫し、信濃川へと注ぎます。
かつてその川沿いには河船が行き交い、山から切り出された材木が集まりました。総面積の7割を山間地が占めるこの土地には、古くから天然の桐が豊富に自生していました。桐と水と山——それが、加茂の桐箪笥を生みました。
その技術と美しさが広く認められ、昭和51年、加茂の桐箪笥は通商産業大臣から「伝統的工芸品」の指定を受けました。桐の持つ優れた特性、美しい木目、木肌のぬくもり、そして手作業による高い技術が、国のお墨付きを得た瞬間でした。

 

三代、百年の一軒

その加茂で、約百年にわたって桐箪笥をつくり続けてきた一軒があります。高橋たんす店です。
現在工房に立つのは、3代目の高橋富雄さん。この道一筋、40年余。丸太の木取りから組み立て、塗りに至るまで、ほとんどの工程を一人でこなします。
取材で工房を訪ねると、鉋の音と桐の清々しい香りが出迎えてくれました。

 

 

「防腐剤は一切使いません」

「防腐剤は一切使いません」と富雄さんは言います。市場に出回る箪笥の多くには、防腐処理が施された材が使われています。
引き出しを開けた瞬間に鼻をつく、あの独特の強いにおいです。高橋たんす店の箪笥にはそれがありません。国産の桐材にこだわり、素材そのものの力を信じてつくります。
「桐はそれだけで、十分に強い木なんです」。

 


 

急かすことのできない木

桐箪笥の製作には、丸太から完成まで、およそ4〜6年の歳月がかかります。乾燥に時間をかけ、木が落ち着くのを待ち、それから初めて刃を入れます。
急いでつくれば、あとで狂いが出ます。桐という木は、急かすことができません。
高橋たんす店が特に評価されるのが、仕上がりの木目の美しさです。木目は一枚一枚、表情が違います。どの木目とどの木目を並べるか——それを判断するのは、長年の経験と眼識だけが頼りです。
機械では決して代替できない、職人の「目」の仕事です。引き出しの段数はもちろん、カラーや金具もオーダーが可能で、使う人の暮らしに合わせて、一棹ずつ仕立てていきます。

 

 

桐という木が持つ力

桐箪笥は、湿気を吸って膨らみ、引き出しをぴたりと閉じます。火事のときには表面が炭化して、中の衣類を守ります。
軽くて、狂いが少なく、虫を寄せつけません。桐という木は、まるで衣類のために生まれてきたかのような性質を持っています。

 

変わらない気持ち

「良いものをつくり続けたい、という気持ちは、今も昔も変わらない」。富雄さんはそう言って、また鉋を手に取りました。
三代分の手仕事が積み重なったこの工房で、今日も桐は削られ、組まれ、箪笥になっていきます。

高橋たんす店の桐箪笥は現在ヤマシタ店舗でのみ取扱いがあります。
ぜひ一度、桐箪笥の美しさに触れてみてはいかがでしょうか。